「二十二社制」について


 平安初期以降に祭祀制度が、国単位で行われる地方国司の祭祀制(いうなれば「一の宮制度」)と、中央集権的な朝廷直轄の祭祀制度とに区分されるようになる。「二十二社制」とはこの平安期以降に発達した「十六社制」から「二十二社制」の祭祀制度をいう。

 「二十二社」とは伊勢の神宮をはじめとした特定の諸社に年穀祈願の祈念穀奉幣をはじめとして、祈雨・祈晴や国家的大事に際して特別に奉幣の対象になった神社のことをいう。
 「二十二社制」は、はじめに「十六社」がきまり、平安中期の永保元年(1081)に二十二社が固定された。平安末期に平氏政権のもとで「安芸厳島社」の加列が朝廷で議論されるが、変更はされず、宝徳元年(1449)に二十二社奉幣がおこなわれた。
 近世では上七社(二十二社の上位)に対する七社奉幣は行われたが、宝徳年間以降、再び二十二社が奉幣されることはなかった。


 「二十二社」の前身である「十六社」に列する神社が原点である。
 桓武朝(延暦七年・788に伊勢及び各名神社に祈雨の為に奉幣)からその動きはみられるが、明確に十六社が奉幣されたのは醍醐朝の昌泰元年(898)という。正式な二十二社成立は康保七年(996)。
 伊勢・石清水・賀茂・松尾・平野・稲荷・春日(上七社)
 大原野・大神・石上・大和・広瀬・龍田・住吉(下七社)
 丹生・貴布禰

 上記「十六社」に正暦二年(991)に三社が加わり「十九社」となる。
 吉田・北野・広田

 正暦五年(994)に「二十社」となる。
 梅宮

 長徳二年(996)に「二十一社」となる。
 祇園

 長徳三年(997)に「二十二社」となる。
 日吉

 白河朝の永保元年(1081)に「二十二社制」が固定され「永制」となる。
 以後、国家的祈願の中心として「二十二社制」が確立し、諸国ごとの「一の宮制」が運用されるようになる。



二十二社一覧表(順位順)
神社名 国名 順位 役割
上七社 伊勢神宮
皇大神宮
豊受大神宮
伊勢 十六社 ・筆頭
二十二社・筆頭
天皇家の皇祖神。
石清水八幡宮 山城 十六社 ・二位
二十二社・二位
清和天皇(在858−876)以降の皇室守護神・鎮護国家神。
賀茂神社
賀茂別雷神社
賀茂御祖神社
山城 十六社 ・三位
二十二社・三位
王城(平安京)鎮護神。
伊勢・石清水・賀茂の上位三社は特に別格扱い
松尾神社 山城 十六社 ・四位
二十二社・四位
王城(平安京)鎮護神。
平野神社 山城 十六社 ・五位
二十二社・五位
皇太子守護神。桓武天皇外戚の氏神。
稲荷神社
(伏見稲荷大社)
山城 十六社 ・六位
二十二社・六位
平安京左京南部の守護神。東寺の守護神。
淳和天皇(在823−833)の玉体守護。
春日神社
(春日大社)
大和 十六社 ・七位
二十二社・七位
天皇家外戚である藤原氏の氏神。
中七社 大原野神社 山城 十六社 ・八位
二十二社・八位
天皇家外戚である藤原氏北家の氏神。
大神神社 大和 十六社 ・九位
二十二社・九位
大和朝廷の王権守護神。
石上神宮 大和 十六社 ・十位
二十二社・十位
大和朝廷の王権守護神。
大和神社 大和 十六社 ・十一位
二十二社・十一位
大和朝廷の王権守護神。
広瀬神社 大和 十六社 ・十二位
二十二社・十二位
大和の五穀豊穣祈願の神。
龍田神社
(龍田大社)
大和 十六社 ・十三位
二十二社・十三位
大和の風水害防護の神。
住吉神社
(住吉大社)
摂津 十六社 ・十四位
二十二社・十四位
対外征討・対外関係の神。海上守護神。
下八社 日吉神社
(日吉大社)
近江 二十二社・十五位 天台宗守護の神。
平安京鬼門延暦寺の鎮守神。
梅宮神社
(梅宮大社)
山城 二十二社・十六位 仁明天皇・光孝天皇・一条天皇等の
外戚である橘氏の氏神。
吉田神社 山城 二十二社・十七位 一条天皇外戚の
藤原北家系である藤原山陰流の氏神。
広田神社 摂津 二十二社・十八位 対外防衞の神。海賊追討鎭撫神。
承平・天慶の乱に際に賊徒平定に霊験。
祇園神社
(八坂神社)
山城 二十二社・十九位 疫病鎮圧・病気平癒の神。平安京内の守護神。
藤原道長の摂関家守護神。
北野神社
(北野天満宮)
山城 二十二社・二十位 藤原摂関家の守護神。平安京内の守護神。
丹生川上神社 大和 十六社 ・十五位
二十二社・二十一位
大和の水源神。祈雨・祈晴(止雨)の神。
貴布禰神社
(貴船神社)
山城 十六社 ・十六位
二十二社・二十二位
山城の水源神。祈雨・祈晴(止雨)の神。


<参考図書>
日本神社名鑑・諸国一宮 新人物往来社 2002年4月
なかでも所収論文の「二十二社」の謎と歴史 岡田荘司著 を参考とした。



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ここから下はおまけ(笑)

 話は前後するが「二十二社」や「一の宮」が制定される前に基礎となっている制度があるので簡単に触れておく。 
 宇多天皇の頃に一代一度の「大神宝使の制」が仁和四年(888)に始まる。代替わりごとに大神宝を奉献した対象神社は五機七道の50社。そこには「二十二社」が十三社、「一の宮」が二十九社が入っており、地域ごとの優勢な神が選定されている。
 ここで詳述する気力はないので神社名だけを列記しておく。


畿内
 山城: 石清水・園韓神・賀茂・稲荷・松尾・平野・大原野
 大和: 春日・大和・大神・石上・率川
 河内: 恩智・枚岡
 摂津: 住吉・大依羅・生田・長田

東海道: 伊勢・多度・熱田・浅間(駿河)・三島・香取・鹿島

東山道: 日吉・南宮・諏訪・貫前・二荒山・塩竈・大物忌

北陸道: 若狭彦・気比・白山・気多・

山陰道: 熊野(出雲)・出雲

山陽道: 伊和・中山・吉備津彦(備中)・厳島

南海道: 日前国懸・大山祇

西海道: 宇佐・香椎・宗像・住吉・高良・阿蘇


 これらの有力神社がのちの延喜式記載の名神神社や、二十二社神社、一の宮神社等に名前を連ねることになる。



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