天岩屋戸隠れ

 

 天照大神は須佐之男神の御乱行を御覧になりまして畏れをお抱きになり、天岩屋戸(あまのいわやど)を開いて中にお隠れ遊ばれました。そのために高天原は真っ暗になり、葦原中国もすっかり闇に閉ざされてしまい、昼がなく、夜だけの世界となってしまった。このため、多くの災い事が起こる事態となってしまった。

 そこで大勢の神々様は、天安河の河原に集まって、いかに天照大神を岩屋戸から引き出すかの思案を重ねた。

 

天岩屋戸に集った神々

思兼神

おもいのかねのかみ

・高御産巣日神の御子
・知謀、学問の神
・岩屋戸からどうしたら天照大神が出てくるか考え、また国譲り神議の際の建議者
・大工が建前にかかる際に手斧初めの儀式の主神
秩父神社(国小、埼玉秩父)静神社(県社、茨城那珂)

鍛人天津麻羅

かぬちあまつまら

・敬称のつかない神様
鍛冶を司る神

伊斯許理度売神
(石凝姥命)

いしこりどめのかみ
(いしこりどめのみこと)

・岩屋戸前で鏡を鋳る神
・鉄鋼、金物の神
中山神社(国中、岡山津山)鏡作坐天照御魂神社(県社、奈良)

玉祖命

たまおやのみこと

・玉造部の祖神
・岩屋戸前で大勾玉の玉飾りを作成
・珠つくりから転じて眼鏡の神ともされている
玉祖神社(国中、山口防府)

天児屋命

あめのこやねのみこと

・岩屋戸前で太祝詞を奉す
・中臣氏の祖神
春日大社(奈良)枚岡神社(大阪)大原野神社(官中、京都)吉田神社(官中、京都)その他全国の春日神社

布刀玉命
(天太玉命)

ふとだまのみこと
(あめのふとだまのみこと)

・岩屋戸前で大玉串を捧げた神
安房神社(官大、千葉館山)大麻比古神社(徳島鳴門)

天手力男命

あめのたぢからをのみこと

・岩屋戸の扉を開ける係りをうけもった神
・天孫降臨の際の随伴神
戸隠神社(国小、長野戸隠)

天宇受売命
(天鈿女命)

あめのうづめのみこと

・岩屋戸前に集った神々の中で中心的な役割を果たす(後述)
・天孫降臨の際にも出迎えた国神との談合を受け持つ(後述)
・神楽、技芸、芸能の神
椿大神社(県社、三重鈴鹿)

 

 

 神々が造った大勾玉の玉飾りや、大きな鏡を懸け、フトダマの命が大玉串を捧げ持ち、アメノコヤネの命が祝詞を唱えている中で、アメノタヂカラヲの命が戸陰に隠れた。そこにアメノウズメの命が空桶に乗って、神懸かり的に胸を掻き乱し、裳を下げたらして踊りになると、大勢の神々さまがどっとお笑いになった。
 天照大神は不思議に思い、岩戸を細めに少し開け「私が岩屋戸に隠れたことで、天の原も葦原中国も皆暗くあろうとおもったのに、なぜアメノウズメは歌い舞い、多くの神々は笑っているのか」と仰せになった。アメノウズメの命は「あなた様よりすぐれて貴い神様がいらせられます。それで喜んで笑い遊んでいるのであります。」とお答えした。この時アメノコヤネの命とフトダマの命とが鏡を差しだし天照大神にお見せすると、天照大神は鏡に映った神を御覧になり不思議に思い遊ばれ、ほんのすこし戸からお出でになった。その時隠れていたアメノタヂカラヲの命が御手を引っ張って引きだし、フトダマの命が尻久米縄(しりくめなわ)でくくり、「これからは内にお帰り遊ばれますな。」と申し上げた。
 こうして天照大神がお出でになると、高天原も葦原中国も照りあかるくなった。

 

 

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