一の宮について
(一宮・一之宮・一ノ宮とも表記)
(当サイト内では「一の宮」と統一)
平安時代から中世にかけて行われた一種の社格制度。一の宮は、おそらくは平安初期から徐々に整えられ、平安中期から鎌倉初期にかけて確立したとされている。平安期の当初は朝廷または国司が特に指定したのでなく(指定した場合もあるが、それは鎌倉室町以降)、諸国において由緒の深い神社、信仰の篤い神社が勢力を有するに至って、おのずから神社の階級的序列が生じ、その首位にあるものが「一の宮」とされ、奉幣などに優先的地位を占めることが公認されるようになったとされる。
以下、二の宮・三の宮・四の宮と各国内での序列も定められたが、神階的に「一の宮」の勢力が他の神社を圧倒し、「一の宮」以下の序列が定められなかった地域もある。
また国単位ではなく、郡単位や郷単位でも「一の宮」はあるが、普通は「国単位」を一の宮と呼称する。
国司は任地に赴くと、まず吉日を選んで、その国の主要な神社を参拝する。それらの詣でる神社が「一の宮」以下に序列され、国府の近くに合祀した神社を「惣社」(総社)としている。総社は早い段階で消滅したものや、一の宮に吸収されたもの、消滅しのちに新興したもの等がある。
また八幡社の「惣社」もある。これは鎌倉期に国分八幡・国府八幡と呼称される国府所在地に国衙の鎮守としてまつられた「一国一社の八幡宮」(当然、国衙・国司の崇敬社)のうち、国内での惣社の機能もあわせもった神社のことをいう。一国一社の八幡宮で、惣社の機能が働いていた神社を「惣社八幡」と呼称。
一口に一の宮と呼称してもいろいろある。出雲の杵築大社(出雲大社)をはじめとして古代以来の伝統的勢力を誇る神社は「一の宮制」確立以前から「一国の鎮守神」として神威を発揮しているが、そうした有力な神社の多くは中世を通じて「一の宮」としての呼称が確立・定着せず、さらには「二の宮」「三の宮」が成立していない国も多数ある。
基本的に一の宮は不動のものではなく、時代によって神社が変化している。ゆえに「一の宮」も複数存在している。
また、延喜式格式とは関係なく国府に近いところ(参拝し易い順)から順次「一の宮」「二の宮」と制定される例もある(武蔵国や尾張国など)。
「諸国一の宮」には典型的な四タイプがあるという。(以下『日本神社名鑑・諸国一宮』新人物往来社・20002年3月所収。井上寛司著「一の宮制の研究」より)
Aタイプ
「出雲」杵築大社
一の宮は古代以来の伝統を誇る杵築大社(出雲大社)で、中世を通じて二の宮以下が存在せず、また「一の宮」と呼称することもなかった。鎌倉中期には総社(惣社)も杵築大社の末社にとりこまれ、国衙権力の持つ機能の重要な一部が杵築大社に吸収され、独占された。
このタイプは国衙が弱まり、守護・一の宮の併存体制となる。
同タイプの地域として「下野」「若狭」「丹後」「因幡」「筑後」等。
Bタイプ
「常陸」鹿島神宮
一の宮は古来以来の伝統を誇る鹿島神宮であるが、「二の宮」「三の宮」も存在。戦国期まで国衙機能は存続し、「総社(惣社)」も国衙権力の一翼として機能し続けた。
このタイプは国衙機能を吸収し領国支配を確立しようとした守護に対して、一の宮を中心に独自の権力を維持しようとした形。国衙・守護・一の宮の併存体制となる。
同タイプの地域として「上総」「備中」「伊予」(伊予は二の宮以下が不詳)等。
Cタイプ
「武蔵」小野神社・氷川神社
一の宮は府中地域にある小野神社。古代以来の伝統ある氷川神社は三の宮。これは神階とは関係なく国府地域に近いところから一の宮以下が定められたからという。全体として六の宮まで存在。惣社は大国魂神社。
このタイプは一の宮以下の勢力に差違がなく、互いに拮抗しあっていた。またこのタイプの総社は一般的な国内の神々を祭る総社ではなく、一の宮以下の序列に並ぶ神しか祀っていないところに特徴がある。
同タイプの地域として「尾張」「和泉」等。
Dタイプ
「薩摩」枚聞神社・新田宮
平安期から鎌倉期までの一の宮は枚聞神社。ところが鎌倉末期以降に守護であった島津氏の支援を得た新田宮が新しく一の宮の地位を確立。二の宮以下や総社は確認できない。
このタイプは一の宮の地位が世俗的な争奪の対象となった地域。先に挙げた「武蔵」(氷川神社・小野神社)もこの関係にあったといえる。またこのタイプはそれぞれ対応した二の宮以下が存在していない。
同タイプは「陸奥(都都古別神社)」「肥前(千栗八幡宮・河上神社)」「紀伊(日前国懸社・天野社)」「越後(弥彦神社・居多神社)」等。
こうした一の宮制度も中世末期をもって解体されたとするが、由緒や呼称は生き続けてきた。
また近世以後に新たに発展した神社や明治維新後に「新一の宮」として確立した神社もある。そして、中世から近世まで全国の神社を統括していた吉田神道(吉田家)と結んで、新たに「一の宮」の呼称を獲得した神社(実例は控えるが)もある。
参考文献
『国史大事典』吉川弘文館
『日本神社名鑑・諸国一宮』新人物往来社・20002年3月
***また何か書きたくなったら、まとめてみます***